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妖かし語り

庭の片隅には古井戸があった。
これまた、ただでさえ明るからぬ空気をいっそう澱ませていた。
釣瓶がついていた。
試みに引き上げてみたが、妙に軽かった。
それもそのはず、中途で切れていた。
井戸はかなりの深さと推察された。
闇のなかに、澱んだ水が溜まっているのがぼんやりと見えた。
なんとなく饐えたような、忌な臭いがした。
(「I 顔」より) 本格恐怖小説の第一人者による、短篇連作形式の長篇ホラー。
クトゥルー、サイコ、スプラッタまで各種取り揃え、迫真の恐怖が描かれる。
●倉阪鬼一郎(くらさか・きいちろう)1960年、三重県伊賀市生まれ。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒。
同大学院文学研究科日本文学専攻博士課程前期中退。
在学中に幻想文学会に参加、1987年に短篇集『地底の鰐、天上の蛇』でデビュー。
印刷会社、校閲プロダクション勤務を経て、1998年より専業作家。
第3回世界バカミス☆アワード(2010年)、第4回攝津幸彦記念賞優秀賞(2018年)。
ホラー、ミステリー、幻想小説、近年は時代小説を多数発表、オリジナル著書数は200冊を超える。




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