最終結晶体その他の物語
〈巡礼者〉の背中がしだいに大きくなっていく。
ショウに気づいていないのか、振り向く気配はない。
白い衣装の裾が風に揺れる。
少しだけ不自然に、揺れる。
あれが〈流刑者〉なら殺して食べればいい。
どうせ〈流刑者〉は舌を抜かれている。
何も語ることはない。
ちょうど母の干し肉もなくなった。
母を殺した理由はない。
ナンブでは何の理由もなく人が死に、殺される。
ただそれだけのことだ。
(「最終結晶体」より) 怪奇・ホラーの名手が贈る電子オリジナル作品。
「異形コレクション」収録作を中心に、競作集や雑誌発表作など21本を収録した短篇集。
*一*四*腐*牛男*常世舟*它川から*死の仮面*分析不能*黒月物語*聖者の眼*ある帰郷*夢淡き、酒*影踏み遊び*蝋燭と砂丘*最終結晶体*最後の一冊*額縁の中の男*夜のトンネル*赤い灯りのバス*一年後、砂浜にて*イグザム・ロッジの夜●倉阪鬼一郎(くらさか・きいちろう)1960年、三重県伊賀市生まれ。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒。
同大学院文学研究科日本文学専攻博士課程前期中退。
在学中に幻想文学会に参加、1987年に短篇集『地底の鰐、天上の蛇』でデビュー。
印刷会社、校閲プロダクション勤務を経て、1998年より専業作家。
第3回世界バカミス☆アワード(2010年)、第4回攝津幸彦記念賞優秀賞(2018年)。
ホラー、ミステリー、幻想小説、近年は時代小説を多数発表、オリジナル著書数は170冊を超える。
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