アシッド・ヴォイド
扉の隙間から、炎に包まれた触手が、何本となく突き出される。
それは元龍に力を貸すかのように、扉に貼り付き、引いていった。
扉が半分開かれる。
向こうのものの姿が、ぼくの瞳を貫き、眼底に灼きついた。
「ふんぐるい、むぐるわなー・くとぅぐあ・ふぉまるはうと……」耳を覆いたくなるような、粘液性の声をあげて、それは扉をさらに開こうとしている。
それの姿は……強いて表現するならば、生きている溶岩……光球の群れで作られた人間のようなもの……炎の触手をのたくらせている蛸……。
(「十死街」より) ラヴクラフトへの想いに満ちた初期作品から、ウィリアム・バロウズに捧げた書き下ろし作品まで。
クトゥルー神話を先導しつづける、朝松健の粋を集めた傑作短篇集。
*星の乱れる夜*闇に輝くもの*ゾスの足音*十死街*空のメデューサ*球面三角*Acid Void New Fungi City●朝松健(あさまつ・けん)1956年札幌生まれ。
東洋大学卒。
出版社勤務を経て、1986年『魔教の幻影』でデビュー。
ホラー、伝奇など、幅広い執筆活動を続けている。
2006年『東山殿御庭』が第58回推理作家協会賞短編部門の候補となる。
近年は室町時代に材をとった幻想怪奇小説〈室町ゴシック〉、一休宗純を主人公とした〈一休シリーズ〉、かつて誰も書かなかった〈異形の戦場〉と化した京都を描いた『血と炎の京』で高い評価を得ている。
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