百貨店の社長として烈しい競争の世界を疾駆し続ける〈私〉の胸に、ふと、引き裂くように自由への渇望がこみ上げる。<br />そのような時にはまた、宿業を負った生い立ちから、理想に燃えて父に反逆した青年期が思い起こされる。<br />――一族の血の重さに耐えつつ、ひたすらに事業を拡大し、なおしなやかな感性を保ち続けようとする生きざまを、驚くべき真率さで物語る。<br />平林たい子文学賞受賞。<br />