「一日に五千回ぐらい、死にとうなったり、生きとうなったりする」男との束の間の奇妙な友情(表題作)。<br />トマトを欲しながら死んでいった労務者から預った、一通の手紙の行末(「トマトの話」)。<br />癌と知りながら、毎夜寝る前に眉墨を塗る母親の矜持(「眉墨」)。<br />他に「力」「紫頭巾」「バケツの底」等々、日々の現実の背後から、記憶の深みから、生命(いのち)の糸を紡ぎだす、名手宮本輝の犀利な「九つの物語(ナイン・ストーリーズ)」。<br />