美しい多津子は、掠奪者の手に引かれていったのだ。<br />――心の底に隠されたままの、深い傷に発する情念、それこそが、若い諏訪高男の運命を、根源においてゆさぶらずにはおかぬものだった。<br />医師である父に反抗して家出し、やがて、たくましいヤミ商人となった高男。<br />そして、ついには億万もの毛織物を先物買いするほどの富を築きながら、一挙に失敗して転落、彼は自殺を遂げる……。<br />