交通事故で負傷した万葉研究家の千沼鏡史郎は、深夜、病院の一室で神の声を聞いた。<br />「人間の心を正せ、世の紊れを直せ!」今や汚辱と虚偽に満ち満ち、魔ものどもの跳梁するこの世に闘いを宣し、万葉の浄らかな心を取りもどさねばならぬ――崇高な使命を自覚した彼は、家人の目を盗み、最愛の孫娘を連れて旅に出た……。<br />ほのかなユーモアの底に現代への鋭い批判をこめた異色作。<br />