「白髪というものは、時によって白く見えたり黒く見えたりするものですね」―知りもしない唄をゆるゆると、うろ声を長く引いて唄うような気分。<br />索漠と紙一重の恍惚感…。<br />老鏡へ向かう男の奇妙に明るい日常に、なだれこむ過去、死者の声。<br />生と死が、正気と狂気が、夢とうつつが、そして滑稽と凄惨とが背中合せのまま、日々に楽天。<br />したたかな、その生態の記録。<br />毎日芸術賞受賞。<br />