大正末期から昭和初頭にかけて、大衆文壇における奇才・三上於菟吉の名声は素晴らしかった。<br />本篇は、その三上が昭和九―十年に発表した、彼の代表作。<br />主人公は、美貌の女形、雪之丞。<br />自家を壊滅させ父母を窮死させた五人の敵に対して、雪之丞が次々と復讐をなしとげていく凄絶な物語で、甘美な歌舞伎の世界を背景に、侠盗や女賊や将軍の寵姫などを縦横に活躍させて、興味つきない。<br />