私の胸中にはいくつかの川が流れている。<br />幼き日に見た真間川、蕪村の愛した淀川、そして母の実家の前を流れる鏡川だ――。<br />明治維新から大正、昭和初期までを逞しくも慎ましく生きた、自らの祖先。<br />故郷・高知に息づいた人々の暮らしを追憶の筆致で描く。<br />脱藩した母方血族、親族間の確執と恋慕、母が語ったある漢詩人の漂泊……。<br />近代という奔流を、幼き日の情景に重ね合わせた抒情溢れる物語。<br />