親しい友人も愛した男も、皆この世を去った。<br />それでも私は書き続け、この命を生き存(ながら)えている――。<br />吉行淳之介との不思議な縁。<br />幼い自分を容赦なく叱った職人の父との思い出。<br />色恋に疲れた男と老女とのささやかな交情。<br />流麗に達し合うことができる、女性同士の性と愛。<br />円熟の筆が、「私」と艶やかな共犯関係を結ばせるように、読者を物語へと誘い込む。<br />終世作家の粋を極めた、全九編の名品集。<br />(解説・田中慎弥)