今から三十年以上前、小学校帰りに通った喫茶店。<br />店の隅にはコーヒー豆の大樽があり、そこがわたしの特等席だった。<br />常連客は、樽に座るわたしに「タタン」とあだ名を付けた老小説家、歌舞伎役者の卵、謎の生物学者に無口な学生とクセ者揃い。<br />学校が苦手で友達もいなかった少女時代、大人に混ざって聞いた話には沢山の’本当’と’嘘’があって……懐かしさと温かな驚きに包まれる喫茶店物語。<br />(解説・平松洋子)