江戸回向院前の「へんろ宿」には訳ありの旅人がやってくる。<br />旗本の嫡男で剣の達人だった市兵衛と一弦琴の名手の佐和夫婦が安い宿賃ながら心を込めてもてなす――。<br />死期迫る浪人が江戸で最後の願いを遂げるべく投宿するが(表題作)。<br />江戸藩邸内で消息を絶った父親を救いに関所を躱してやってきた娘(「名残の雪」)。<br />実直そうな紙商人が宿に戻ってこない(「通り雨」)。<br />こころ打つ人情ものの傑作四編。<br />(解説・縄田一男)