藩の勘定方を退いてはや五年、孫左衛門もあと二年で還暦を迎える。<br />城下の寺にたつ欅の大木に心ひかれた彼は、見あげるたびにわが身を重ね合せ、平穏であるべき老境の日々を想い描いていた。<br />ところが……。<br />舞台は東北の小藩、著者が数々の物語を紡ぎだしてきた、かの海坂。<br />澹々としたなかに気迫あり、滑稽味もある練達の筆がとらえた人の世の哀歓。<br />藤沢周平最晩年の境地を伝える三篇。<br />