その財力を賭けて粋を競った相手の紀ノ国屋文左衛門は、悪銭廃止令によって没落した。<br />勝ち残った奈良屋茂左衛門の胸を一陣の風が吹き抜けていった。<br />紀文と共に一つの時代が過ぎていったようだ……(表題作「霜の朝」)。<br />ほかに、若い武家夫婦の無念を晴らす下男の胸中(「報復」)や、意に染まぬ結婚をした女のあわれ(「歳月」)等、人の心に潜む愛と孤独を、円熟した筆に綴った時代小説傑作集。<br />