わたしを棄てた男が帰ってきた。<br />大江戸の裏店でそっとともした灯を吹き消すような暗い顔。<br />すさんだ瞳が、からんだ糸をひくように、わたしの心を闇の穴へとひきずりこむ――。<br />ゆらめく女の心を円熟の筆に捉えた表題作。<br />ほかに、殺人現場を目撃したため、恐怖心から失語症にかかってしまった子供を抱えて働く寡婦の薄幸な生を描く「閉ざされた口」等、映画化作品「小川の辺」を含む時代小説短編の絶品七編を収める。<br />