お前の指を、腕を、舌を、愛着した。<br />僕はお前に恋していた――。<br />相手は旧制中学の美しい後輩、清野少年。<br />寄宿舎での特別な関係と青春の懊悩を、五十歳の川端は追想し書き進めていく。<br />互いにゆるしあった胸や唇、震えるような時間、唐突に訪れた京都嵯峨の別れ。<br />自分の心を「畸形」と思っていた著者がかけがえのない日々を綴り、人生の愛惜と寂寞が滲む。<br />川端文学の原点に触れる知られざる名編。<br />(解説・宇能鴻一郎)