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狂歌

◆第10回 日経小説大賞受賞作! 第10回日経小説大賞(選考委員:辻原登・高樹のぶ子・伊集院静)を受賞したのは、古典的とも見える血をめぐる復讐劇を、仮想通貨交換会社というある意味で現在を象徴する場所を舞台に選び、人間が欲望にとりつかれ正気を失っていく様を描き出した本作。
人間誰しも自制心で抑えている欲望が何かのきっかけで堰を切ってあふれだした時、必ず犯してはならない禁忌にふれる。
そして、禁忌ゆえの抗いようのない魅力にとりつかれ人は墜ちていく。
不正な会計操作、結ばれてはならない男女がおぼれていく恋とセックス、余計者を闇に葬る排他的なムラ社会……。
選考会で評価されたのは、作品、そして文章そのものが持つ強烈な身体感覚だった。
‘肉食系女子’という言葉があるが、ねっとりと濃密な文章は‘肉食系’そのもの。
「文学から身体感覚が失われて久しいが、その意味でも受賞者は希有な存在だ」(高樹のぶ子氏選評より)九州・福岡の土着性もうまく取り入れ、暗く陰鬱になりそうな題材であるにもかかわらず、カラフルなパッションが加味された力強い作品に仕上がっている。
物語の前半は、ある意味‘よくある’女がほれた男のために身を落とす話が展開されていく。
タイトルの「狂歌」は「戯れ歌、こっけいな歌、ひわいな歌」という意味。
この‘よくある’話にふさわしいが、それが初めから仕組まれたものだったとしたら――後半はまさに人間が欲望にとりつかれ「狂」う話に変貌する。




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