朝の清々しい光のなかを、娘は竹竿にすがって歩いていく。<br />一心不乱に黒い眸(ひとみ)を輝かせて、ひとりで歩く稽古をしているのだ。<br />それは徹夜で疲れきった男の胸に沁みた。<br />男の身体は賭場のにおいに濃くつつまれている。<br />孤独な心象をあざやかに描く表題作のほか、巷(ちまた)のはぐれ者たちの哀切な息づかいを端正に、ときにユーモラスに捉えた「馬五郎焼身」「おふく」「穴熊」「しぶとい連中」「冬の潮」をおさめた、藤沢周平初期の短篇名品集。<br />