エンジンが大好きな組立工がいた。<br />故郷の自動車エンジン工場勤務から、ある日、F1チームのエンジン組み立てメンバーに選ばれた。<br />サーキットを転戦して世界を回る毎日。<br />すばらしい日々だ。<br />帰国休暇にはガールフレンドに土産をやり、土産話をするのも、その栄光の一部だった。<br />3年の出向期間が終わり、故郷に戻った男を待っていたのは、しかし味気ない、退屈な生活だった──喜びのあとに訪れる悲しさ、‘成熟と喪失’を描いた第111回直木賞受賞作ほか、傑作短篇が全6篇。<br />