お雛が鈴のような声で「父(とと)」と叫ぶと、血みどろの軍服に白刃ひっさげた父親の幽霊が現われて、危機を救ってくれる……。<br />その可憐な少女を馭者台の脇に乗せて今日も干兵衛の辻馬車は東京の街を行く。<br />欧化政策により華やかな変貌をつづける都市を背景に、幽霊となってなおわが身を死に追いやった男を恐れる干兵衛の妻の秘密、四方八方手をつくして見つからぬお雛の母の正体、そして将来を嘱望された若者たちを惨殺した自由民権運動家の野心がぞくぞくと解き明かされる。<br />