入社数年後、ふっつり会社をやめて、実家の私室に引き籠もりはじめた男の手記──男はカフカの『変身』を読んで思う。<br />これは俺だ。<br />いまの俺は巨大な虫だ。<br />老いた両親は怯えて俺を観察している。<br />『変身』の主人公、すなわちある朝起きたら虫になっていた男、グレーゴル・ザムザの感じたことが俺にはよく分かる。<br />それはこんな気持ちに違いない……ネット上に漂う、現代のグレーゴル・ザムザ。<br />引き籠る人間の内面を完璧に描き出した、精緻な文学の結晶。<br />