「瑛子が井崎を殺し、井崎が道子を殺し、道子という存在が瑛子を殺す。<br />それは逆に回転しても同じことだった。<br />瑛子が道子を殺し、道子が井崎を殺し、井崎が瑛子を殺す……。<br />人間が人間にかかわることはお互いに殺しあうことではないかという暗い気持で充たされていた。<br />井崎が願っていたのは安穏な生活だけだった。<br />安穏な生活を求めることも人を殺すのか」(本文より)。<br />得がたい肉体を持った酒場の女との情痴への惑溺と人生の懈怠とを巧妙を極めた描写で描いて世評高き傑作。<br />