(おかしい。<br />いつもとはちがうような……)居間へあがったとたんに、宗春は感じた。<br />独り暮しの、棲み慣れた家だから、どのように些細な変化、異常があっても、するどい宗春の勘のはたらきは、それを見逃すはずがない──。<br />はずみで家老の子息を斬殺してしまった宗春は、名を変え、身分を変えて江戸へ逃れたが、しだいに討手はせまる。<br />一方で、身を隠す暮しのうちに、宗春は人の情けと心意気を知った……。<br />円熟の筆で描く傑作長編時代小説。<br />