女のもとへ通う夫に傷つき、山あいの別荘へ隠れすんだ「わたし」。<br />深い森の工房でチェンバロ職人とその女弟子と知り合い、くつろいだ気持ちをとり戻すが、しだいに湧きあがる情熱が三人の関係に入りこみ──。<br />おごそかに楽器製作にうちこむ職人のまなざし、若い女弟子が奏でる『やさしい訴え』、カリグラフィーを専門とする「わたし」の器用な手先。<br />繊細なうごきの奥にひそむ酷い記憶と情欲。<br />三者の不思議な関係が織りなす、かぎりなくやさしく、ときに残酷な愛の物語。<br />