兼七は腕のよい雪駄職人だったが、酒が原因で問屋に見放された。<br />そんな酒浸りの父親が嫁入りの邪魔になると娘に泣きつかれた母。<br />夫はもう、常人にはもどれない。<br />けれど見捨てることができようか──夫婦、親子の愛情の機微を描く表題作。<br />岡場所に身を沈めた幼馴染と再会した商家の主人、5年ぶりにめぐりあった別れた夫婦、夜逃げした家族に置き去りにされた寝たきりの老婆……。<br />市井に生きる男女の哀歓を、鏤骨の文章で綴る珠玉の名品7篇による短篇集。<br />