真面目いっぽうの銀行員の父が亡くなった後、母は声がくぐもってやさしくなった。<br />そんな母をわたしは旅行に誘った。<br />車に乗りなれない母とのドライブ。<br />「あたし、真由美ちゃんの運転、ちょっとその、こわいの」母は小さな声で言った。<br />ドライブインがあるから、と断っても持ってきた、手作りのちらしずし。<br />野菜のおにしめ。<br />いわしの梅干煮。<br />旅の行き先は温泉つきの豪華な旅館。<br />その夜、母が娘に頼んだことは……しみじみとしたショート・ストーリー。<br />