遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた――紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。<br />祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯人、そして……。<br />人生のささやかな一場面が鮮やかに甦る。<br />それは絶望ではなく、今日を生きるための物語。<br />今はもういない人たちの声、誰の中にもある「物語」をそっとすくい上げて、しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。<br />