三万の秀吉軍と相対した五千名の元春軍は、にわかに川の橋板をはずし、船を陸にあげ始めた。<br />「なんと元春め、自ら退路を断つ気か。<br />このような敵と戦っては、味方の被害は計り知れぬ」秀吉はたまらず姫路へと兵を引き揚げた。<br />―父・元就を補佐して中国を平定、弟の小早川隆景とともに「毛利の両川」と称賛された吉川元春。<br />天下取りの愚を避け、毛利の領国を守り抜いた賢明なる武将の生涯。<br />