グッバイ、スプリング
その日、ふと訪れた喫茶店を「終の棲家」と決めた。
法医学者の私にとって、「死」は誰にも平等に訪れるとても当たり前だったのに。
「不治の病」を宣告されたその時から、死はなんだかリアル。
死臭とは違う、香り豊かなコーヒー。
マスターの雰囲気があたりを居心地の良い場にしてくれる。
――突如場の空気を割いた、カップルの痴話喧嘩。
静まり返った店内をヒール音とともに去る女性とみじめに泣く男性を情けなく眺めながらも、私は人間の脂肪に似た卵サンドをほおばった。
生きている間は、お腹だって減る。
今だけは心から愛する純喫茶で、コーヒーの香りと、ささやかなBGMに身を委ね、そして友人とのおしゃべりを楽しもう。
運命の歯車はいつから回っていたのだろう。
あのさ、私の最期は泣けるのかな、笑えるのかな。
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