虹霓のかたがわ
魅力的な異界、迫るダンス描写、考え抜かれた「身体というもの」。
この設定あってのこの話であり、この話だからこそのこの思想。
榛見あきるは「物語」の力を存分に発揮した。
さあ、隻手の声を聞け。
──菅浩江エンターテインメントであると同時に、チベット文化への深い洞察と敬意をもって描かれた作品であり、長い間政治的抑圧状態にあるチベットをしっかりと見据え、そのような状況下でも自らの文化を未来へと継承していこうとする人々の、真摯な姿を描いた作品でもある。
ペーマが羅刹女のアヴァターと一体となって舞う姿は、チベットという土地に根ざした信仰のあり方を象徴しているとも言えるのである。
──星泉(「解説」より)ルビを多用したサイバーパンク的な文体とエキゾチックな舞台、仏教文化とダンスのディテールが融合し、魅惑的な小説世界を構築する。
緻密な描写力で新たな美の創造にチャレンジした作品。
──大森望(「解題」より)街を拡張現実で覆い、観光都市と化した近未来のチベット。
少年僧ペーマは、かつて同地を襲った大火で左手を失って以来、どこか周囲から隔絶された感覚を抱いていた。
その欠落を埋めるため、彼はひそかにダンス教室に通い、そこで貸与された「羅刹女」のアバターを身にまとってストリートで踊り続ける。
だがある日、そのアバターのライセンスが僧院主催のダンスオーディションの景品となり、彼は使用権利を剥奪されてしまう。
失われた身体を取り戻すため、オーディションへの参加を決意したペーマ。
その果てに彼が垣間見た、チベット仏教の理想たる『虹の身体』の秘奥とは──。
〈ゲンロン 大森望 SF創作講座〉で第4回ゲンロンSF新人賞(選考委員:菅浩江、伊藤靖、大森望、東浩紀)に輝いた受賞作が、大幅な改稿のうえ電子書籍化。
チベット語・チベット文学研究者の星泉による解説、書評家・翻訳家の大森望による解題を付す。
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