なんでおれが──。<br />考える時間は売るほどあった。<br />でも、納得のいく答えは見つからなかった。<br />十万の雨粒に溶けた一滴の絶望が、墨汁をぼたりと垂らすように、だれかのからだを黒く潰す。<br />十万の陽射しに紛れた一本の針が、死んだクワガタを標本にするみたいに、だれかを集中治療室のベッドに突き刺す。<br />そのだれかがおれでなければならない理由は、どこにもなかった。<br />(本文より)