私は、井伏先生がお元気なころに履かれた下駄を持っている。<br />昭和30年、早稲田の学生であった私が初めて先生をお訪ねしたときも、玄関にはこれとそっくりの下駄があった――。<br />書けずにいるときは励まし、いいものを書いたときには共に喜び、またあるときは厳しい言葉も――。<br />日本文壇の中央を歩んだ師弟の、初期二十年間の交流。<br /> ※単行本に掲載の写真の一部は、電子版には収録しておりません。<br />