春とは名ばかりの薄寒い日、池波正太郎に初めて会った。<br />桜の花びらの絨毯が敷き詰められた池波邸に押しかけてから10年、書生として誰よりも間近に接し続けた。<br />一晩中書斎に籠って、尋常ならざる量の原稿を執筆していたこと。<br />遅刻を何より嫌ったこと。<br />今この一食を大切にしていたこと……。<br />人間をシビアに見つめ、粋を体現した「人生の達人」池波正太郎の知られざる真実の姿。<br />