遺書は書けなかった。<br />いやだった。<br />どうしても、どうしても――。<br />あの日福島県に向かう常磐線で、作家は東日本大震災に遭う。<br />攪拌(かくはん)されるような暴力的な揺れ、みるみる迫る黒い津波。<br />自分の死を確かに意識したその夜、町は跡形もなく消え、恐ろしいほど繊細な星空だけが残っていた。<br />地元の人々と支え合った極限の5日間、後に再訪した現地で見て感じたすべてを映し出す、渾身のルポルタージュ。<br />(解説・石井光太)