居酒屋に人一倍したしむようになったのは、「二合半のおじさん」のせいである。<br />三十代初めに出くわして三十年ちかくつき合った。<br />そしていろんなことをおそわった――へんくつだが、心をひらいた者にはこよなくやさしい。<br />そんな居酒屋が、方々の町の片隅で慎ましやかに提灯を掲げている。<br />よく知る店もよし、見知らぬ町の見知らぬ店もよし。<br />ふらりと入れば、酒に食べ物、店主と客が織りなす独特の時間がそこにある。<br />