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ルソー

ルソーの『社会契約論』は、フランス革命に、ほとんど何の影響も及ぼしていないし、そもそも、ルソーは「革命」などということを考えもしなかった。
『エミール』を書いたとき、ルソーは、自分にも有り得たかも知れない、いま一つの、楽しい人生を空想していた。
教育を革新しようなどとは考えもしなかった。
『新エロイーズ』は、ルソーが、片恋や社会的な不遇の苦悩から逃避しようとして、私生活と私的感情を書き込んで作った空想物語であって、ロマン派のさきがけになろうなどとは考えてもいなかった。
…しかし、日本で、こんなことを書くと、ルソーを知っているつもりのあらゆる人々から、「ルソーについて、基本的なことも知らないバカ者め」、と怒鳴りつけられます。
しかし、フランスでは、これが穏健中正、支持者のもっとも多いルソー論なのです。
それもそのはず、上記の三点を始めとするルソーのさまざまの面を確実な実証によって証明している本書は、生涯を、ルソーを中心とするフランス十八世紀文化の研究に捧げた、パリ大学名誉教授、ダニエル・モルネの晩年の名著なのです。
この書が初めて翻訳されたので、当の翻訳者を始めとする日本の読書人に、常識をくつがえされたショックは免れません。
しかし、その暫時のショックから立ち直ったわれわれの前に、解き甲斐のある二つの問いが現れます。
第一問、日本人のルソー観は、いつ、そして、何故、統一されて今に到っているのか。
第二問、ルソーとはどんな人だったのか。
人間・ルソーを知己とすることができたら、自分の生き方、人間観、社会観はどう変わるか。
第二問を考えるための貴重なヒントとして、『告白』、『孤独な散歩者の夢想』など、晩年の自伝を虚心に読んで、まずは、人間・ルソーに親しむところから、もう一度、ルソーに接近するのがよい、と、著者のモルネは勧めてくれています。
既成概念の再検討のためにも、是非、本書を、ご一読ください。
(訳者は東大大学院修了、もと大学教員)




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