物語がつむぐ心理臨床 こころの花に水をやる仕事
「不妊治療を機に摂食障害になった母親」「ミヤケを訪ねてたった一人でクリニックにきた少年」「解離になるしかなかった中学生」「激しいボーダーラインの女性」「抑うつになって初めて向き合うことになった夫婦」「癌による死を前にセラピーを求めた家族」─クリニックにやってきた、10のケースをめぐる物語。
美しい言葉と繊細な表現を通して、心理臨床のリアルが語られる。
……彼は私をみると、急いでポケットに手をつっこんで何かを探した。
何やら紙を取り出して広げて私に見せた。
それは皺くちゃになった一万円札だった。
「ミヤケを一つ頼むわ! 金、じいちゃんにもらったお年玉だけど。
このくらいあれば足りるか?」彼の額に汗がにじんでいた。
私は驚いて、「ミヤケを一つ?」と聞きなおした。
彼は、話がすぐに通じない事に少しいらついた調子で続けた。
「オレの友だちがミヤケをやってるって。
そいつすごく良くなったんだ。
おれもいろいろ困っていることがたくさんあるからさ。
ミヤケをやりたいんだ」
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