元ムード歌謡の歌手で、今は函館の小さなスナックのママ野原ゆかりは、本州をめざし津軽海峡をフェリーで渡っていた。ある事情で抱えた借金返済のため、昔のつてを頼ってコンサートツアーと称したドサ回りの旅に出たのである。船内で偶然知り合った同じ名前の森川縁は、12歳なのになぜかゆかりの唄に興味を持ちついて来てしまう。彼女が母親と喧嘩して家出してきたことを知ったゆかりは、親に連絡させ最終目的の東京まで連れて行くことになる。しかし、彼女のコンサートツアーは、行く先々でトラブルが起きことあるごとに中止になってしまう。なかなかステージに立てないゆかりを支える縁。2人は55歳の歳の差を超えていつか、固いきずなで結ばれていく。そしてついに最後の会場、東京に着いたふたり。ゆかりは、ここだけは絶対に唄い上げるつもりだった。そこには、ゆかりの悲しい過去が刻まれていたのだ。笑って笑って笑って、そして……ラスト一行に号泣! ピアフの『愛の讃歌』に乗せて描かれる、切なくて人生のすばらしさに打たれる、山本幸久の最高傑作!