「そうです。賀川少尉を殺したのはわたしです」――本書はそんな殺人者の告白から始まる。第二次世界大戦中期、ビルマの山岳地帯に急拵えの警備隊として配属された賀川少尉一隊。しかし駐屯当日の夜、何者かの手で少尉に迷いのない一刀が振るわれる。私怨か、内紛か――。敵性住民が村に潜りこんでいる可能性はないか。体裁を重んじる軍にあって、少尉の死は徹底して伏され、兵隊と村人の疑心暗鬼は募るばかり。皆目犯人の見当もつかない中、次なる事件が起こり、騒然となる村人たち。調べを進めるうちにあぶり出されてきたのは、幾重にも糊塗された過去と、想像以上に根の深いしがらみだった――。戦争という所業が引き起こす村の分断と人知れず心に宿した復讐の炎。義侠心と忠誠心の狭間で引き裂かれ、人生をねじ曲げられていく人々の数奇な人生を乾いた筆致で描いた本書は、一貫して人間の本質を見つめ、戦争を描き続けてきた著者だからこそ到達しえた戦争小説の極北。善悪の彼岸を跳び越えた殺人者の告白が読む者の心を掴んで離さない、衝撃の戦争ミステリ!