【第32回小説すばる新人賞受賞作】人を天国へと導く幻獣「しゃもぬま」が住む島。美しい少女たちの記憶と、呪われた家系の秘密。あの世へと誘われるのは、いったい誰なのか。幻想と現実を切り裂く、衝撃のデビュー作。人を天国へと導く幻獣「しゃもぬま」が、ある日、私の家のドアをノックした――。待木祐(まちきたすく)は、「夏みかん」の栽培と、「しゃもぬま」という馬のような動物がいるこの島で生まれた。しゃもぬまは死後必ず天国に行くことから、神聖視されている。しゃもぬまは死期が近づくと、島の人間を一緒に天国に連れて行ってくれることがある。そこから、島の人間で誰かが死ねば、しゃもぬまを葬式に呼び、反対にしゃもぬまから「お迎え」がきたら、誰か一人を死なせる慣習が生まれ、永く島では守られている。今の祐の仕事は、風俗情報誌の編集。ある日、睡眠障害に悩まされ、心身ともに疲弊した祐のアパートに、しゃもぬまがやってきた。困惑しながらも、しゃもぬまを受け入れ、死との共同生活が続くうち、祐は奇妙な白昼夢を見るようになる。また、島にいたころの親友・紫織が家に押しかけてきたのを皮切りに、島の人間も不穏な動きを見せ始める。夢の中に現れる女性の正体、そしてしゃもぬまが迎えにきた人間とは。