波の音が聴こえる海沿いの家で、老境に達しようとする男が、自らの人生に思いをめぐらせている。そこには毒がある。蜜もある。禁断と倒錯のエロティシズムの果てに、甘くて危険な秘密が横たわっている……。純文学作家として高い評価を受けながら、バイオレンスロマンの流行作家へ華麗なる転身を遂げ、官能文学の第一人者として長く君臨している作家・勝目梓。近年は『小説家』や『老醜の記』などの私小説でも高い評価を受けている。「さながら古酒の樽の栓を抜いたような、風味豊かな独白体」逢坂剛が「朝日新聞」書評で作品を絶賛したが、石田衣良、小池真理子、山田詠美、重松清、北方謙三など、その作家性にリスペクトを寄せている作家も多い。八十歳を超えて、さらに円熟味と凄みを増し、デビュー40年記念作品として書き上げた短篇集の「あしあと」に続いて、本格的な書き下ろし作品を発表する。近親相姦、同性愛、SMなど、禁忌の性愛も描きながら、小説ならではのカタルシスに誘われる。本物の作家による衝撃の長編小説である。