突然の訪れに、心臓がぱちんとはじけた。そうして、俺の胸にも、とくとくとくとくと音が響く。彼と同じものが ここに生きているのだ。なんて 奇跡。 駅前の小さなコーヒーショップでアルバイトをしながら美大に通う拓海。彼には長い間、絵のモティーフにしたいと観察している青年がいた。毎日、コーヒーショップの前を自転車で通り過ぎる青年は素晴らしく美しい骨格の持ち主で、その横顔は石膏像のマルスを思わせた。モティーフにしたいと思う一方で、一枚のガラスを隔て決して縮まらない距離は大人しく人付き合いの苦手な拓海を安心させてもいた。しかし、ある土砂降りの雨の日に、マルスが店のドアを引いて入って来た―。透明感のある美しい文章が織りなすドラマティック・ボーイズ・ラブストーリー。