深見辰伍は、幼い頃の母の病と死の影響から、廃園の絵のみを描く新進画家だった。後ろ楯であった洋画壇の権威・尾上伴久が亡くなったことで、尾上派の後継者争いに巻き込まれる立場となった辰伍のために、美術ライター・三宅晋平は、彼を伴って越智展彬の邸を訪ねることにした。展彬は、政財界を牛耳る越智一族の一員であり、辰伍のライバルともいえる気鋭画家だが、なぜか辰伍支援を申し出ていた。やがてそれぞれの思惑を内包し、運命が動きはじめる……。 1400枚を超える本格耽美小説の大作、ついに復刊! 加筆修正された双葉ノベルス版を底本に、勁文社版に収録されていた「単行本あとがき」、深沢梨絵氏との「特別対談」、エッセイ「荊の冠に寄せて」を併録した豪華版。●榊原史保美(さかきばら・しほみ)東京都出身。立教女学院を経て中央大学文学部哲学科卒。1982年『小説JUNE』創刊号の最優秀投稿作に選ばれ、「螢ケ池」でデビュー。1985年、初の単行本、『龍神沼綺譚』を上梓。以降、民俗学、宗教学の素養を生かし、形而上学的テーマを昇華させた作品『鬼神の血脈』『荊の冠』等、多数発表。美意識に貫かれた作風により、「耽美小説の草分け的存在」と称されることも多い。1995年発表の『蛇神 ジュナ』より、ペンネームを「榊原姿保美」から現在のものに改めている。趣味は、陶芸、写真、近代建築・ギャラリー巡り。