能楽・葛城流の十二代家元の息子・瑞生(みずお)は後継争いの渦中にいた。京都で新作を舞うことが決まった瑞生は、後援者のすすめで鞍馬教の里で’魔王尊を地下王国シャンバラからお迎えするための祭り’に恩寵を授けられる少年の役となる。そのクマラの儀を経て、大祭で新作を奉納舞いすることが、家元の望みだった。だが、この鞍馬の風に吹かれた時から、瑞生を取り巻く運命は大きなうねりとなって葛城流を揺るがし始める……。 少年神〈サナート・クマラ〉に捧げられた能をめぐる、絢爛たる一大叙事詩。長篇耽美ミステリの傑作。●榊原史保美(さかきばら・しほみ)東京都出身。立教女学院を経て中央大学文学部哲学科卒。1982年『小説JUNE』創刊号の最優秀投稿作に選ばれ、「螢ケ池」でデビュー。1985年、初の単行本、『龍神沼綺譚』を上梓。以降、民俗学、宗教学の素養を生かし、形而上学的テーマを昇華させた作品『鬼神の血脈』『荊の冠』等、多数発表。美意識に貫かれた作風により、「耽美小説の草分け的存在」と称されることも多い。1995年発表の『蛇神 ジュナ』より、ペンネームを「榊原姿保美」から現在のものに改めている。趣味は、陶芸、写真、近代建築・ギャラリー巡り。