私は幽霊を見ない
私は幽霊を見ない。
見たことがない。
さらに目が悪い。
心眼でも見えないし、知覚する脳の器官も機能しない……。
だけどいつでもどこでも怖がっている筋金入りの怖がりだ。
そんな著者は怪談雑誌「幽」で、怪談実話を連載することになった。
そこで小学校時代からの恐怖体験から振り返る。
築百二十年の小学校の女子トイレには、‘四時ばばあなる老怪女’や‘病院で死んだ三つ子の霊’が出現したこと。
大学時代の友人たちから怖い話を聞き取りしたこと。
友達の友達のお姉さんがイギリスのホテルで胸苦しくて目覚めると、金髪の白人女性がなにかをまくしたてながら首を絞めてきた話や、所属していたカメラクラブの部室の廊下を首のない女が走るという話などを思い出す。
幽霊を見ない両親ですら、怪現象に遭遇している。
夜ふと目を覚ますと白装束の自分の母親(著者の祖母)がベッドの脇にものも言わず、無表情で立っていたという。
芥川賞を受賞し、上京した際には、編集者や出会った人たちからの聞き取りを怠らなかった。
タクシー運転手が背負った自殺者の霊の話、マン島で見た妖精のような小さい人と目が合うとウインクしてどこかへ消えた話、自分が殺される夢を見たその夜に殺人事件が起こった話、深夜誰もいないトイレで鳴らされたナースコールなど。
心霊体験をしたいがために、徳島県の廃墟ホテル訪問したり、レジデンスで訪れたアメリカで出ると言われているホテルに泊まったが幽霊には出会えず。
幽霊には会えていないけれど、幽霊とは何かという問いの答えは知っている。
‘幽霊とは、生きているときに上げられなかった声’だ。
私たちは誰であれ今でも、上げられない声を抱えながら生きているから、こんなにも幽霊を追い求めるのだろう。
著者の幽霊探しの旅は続く。
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