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宵待ち月

真一は、今は亡き父の愛人だった桐野小夜子の家に向かっていた。
これで二度目だ。
一度目は父の死の知らせを受けたとき。
今回は妾宅に関して遺言状に記された話をつけるためだった。
大学の助教授をしていた、まじめだけが取り柄だった父はなぜ、小夜子にのめりこんだのか…この女の故郷にいついた理由は──いつの間にか、真一の前に酒が用意されていた。
「お月見には、お酒がなくてはいけません」。
妾宅から川を挟んで見える月はきれいだった。
しみじみとうまかった。
徐々に割れる足、息づく女の部分が、月明かりに照らされる。
ほとばしりそうなほどの強い欲情が真一に取り憑く──父を奪った女に恋情を抱き始めた真一のとった道は……。
【著者略歴】子母澤類(しもざわるい) ─ 建設設計会社勤務の傍ら、小説を執筆、1996年雑誌「小説クラブ」でデビュー。
単行本、雑誌、スポーツ新聞にて作品を発表。
加賀・金沢を舞台にしっとりとした作品に魅了される読者多数。




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