生後まもなく、流木に乗って漂っていたところを拾われて以来、十七年間、親兄弟も親戚も友人もなく、何ごとにおいても自らの感情を封じこめ、慎ましい生活を送ってきたリュス。十七歳で救済院を出て、ネオ・バロック様式のミロナ地図収集館の受付で働きはじめた。化石のような地図に囲まれて、静かでつつましい日々を送っていたはずなのに、ある日リュスのもとに、地図製作技師メルカトルなる人物から、謎の地図が届き、次々と彼のまわりで不可思議な事件が起き始める――往年の大女優エルヴィラ・モンド、少女たちのファッション・リーダーであるモデルのルゥルゥ、私立学校の意地悪なボンボン、黒猫のガスパール…個性豊かな面々が、リュスの変わりばえのしない毎日にさざなみを起こし……かじかんだ心がじんわりほどける、とびきりロマンチックなボーイ・ミーツ・ガール!