北欧の木造家具や建築を長年研究してきた著者が今だからこそ伝えたい、北欧現代デザインを生み出した人々の生活の知恵の数々。 北欧の家具や什器、建築のデザインに興味のある人はもちろん、そのルーツを探ることで見えてきた、日本人にとっても重要な木の文化や、ものづくりの原点について、著者が現地で撮りだめてきた多くの写真とともに解説した書籍です。 はじめにより?北欧の木造建築、さらに当時のままの家具や什器などを見ると、技術的には劣っていても、木を如何に活かすかを考え、木を丸ごと活かす工夫が見られます。 特に椅子を見るとそれを強く感じるとともに、モノの本来の在り方にまで思いを巡らせていることが理解できます。 19世紀になっても、北欧の人々にとって、家は一家の主を中心として家族総出で造るものでした。 什器や椅子、テーブルなども勿論、主を初めとした使い手の手作りでした。 そのため現代でも、家の補修さえ専門家に任せることなく、自ら行う人々が多く見られます。 もちろん私達日本人も、歴史的にも木との関わりが強く、木に対する親しみの深い民俗です。 しかし現代の私達はそれを忘れかけているように思えます。 日本では早くから専門分化が進み、家を建てるのも家具什器を作るのも、もっぱら工人の仕事となっていきました。 それによって専門家の技術は発達しました。 一方で、それらを使う立場の者は木との関わり・木への想いが薄れたとも云えそうです。 現代では、「住まい」は耐久消費財として住宅メーカーの手にわたり、住み手との関りはますます遠のいています。 住み手は、「住まい」を共に「造る」のではなく、「買う」感覚になってしまっています。 近年、各種メディアで古民家や木の家具が取り上げられます。 しかし常に一過性のブームに終わってしまう。 日本の森は、戦後植林された杉、檜が成長しているにも関わらず、手入れがされないため、70%が‘死の森’となっていると云われます。 この森との関わり方にも、現代の日本人が置き忘れた大切なことが感じられます。 このような北欧の人々の木や自然への想いを知るにつけ、私たち日本人にも親しみやすく、優れた‘北欧デザイン’の根底には、その想いを基にした‘ものづくり’の思想があるのではないか、と考えるようになりました。 民家の調査行を通して得たエピソードを交えつつ、第二章に示した、無名の人々の手によって作られた、北欧の民家の中の家具・什器等、云わば民芸品の数々を通して、それらに込めた彼らの強く、深い木(樹)に対する想いを伝えたい。 そして、彼らの想いの表れた‘ものたち’から、「北欧デザイン」の根底にあるものを読み取っていただきたいと考えています。