作家の父と弟と暮らす少年・未智留。凡庸な両親に育てられた少女・残花。自らをほんの少しだけ優れた、でも大したことのない存在と断じる二人は、取るに足らぬ同級生を見下ろしながら、卑俗で平凡な住民を横目に見ながら、生活するにはちょっと不便で色々と物足りないこの町で、ほんの少しの諦観とともに退屈で停滞したささやかな日々を過ごしていた。けれど。ある日の未智留の一言をきっかけに、二人の平穏な関係は唐突に終わりを迎える。近親相姦、同性愛、虐待――少年が背負う過酷な真実が肌を晒した時、二人を中心とした歪な‘家族’の物語が幕を開ける。【もちぎ先生より】この小説の登場人物は必死に生きる、ダメな思考すら持ったただの人間です。だからそんなダメな人間を指差して非難して笑った時、自分が運良くダメじゃないというだけの事実や、自分だってダメになってしまうという事実を無視して、もっと生きづらくなる世界を歩むことになると思います。打算も優柔不断も、依存も懐疑も、冒涜も支配も、うまくいかないコミュニケーションも、後からどうとでも言えるたられば論も、本人の中で矛盾する感情も、全部指摘するのは簡単だけど、人生ってそう簡単じゃないんだなと思って書き上げました。【担当編集より】もちぎさんのこれまでの人生、多くの方々との関係性の中で築いてきた自らという素材を削り、煮詰め、端整に組み上げた、彼の分身のような本。爽やかで心地良く教訓的で、読後に万人が幸せになれる話ではなく、本を開いた瞬間に読者の心を鷲掴みし、力尽くでページを捲らせ続け、容赦なく胸を抉り消えない痕を残すような鋭利な物語。苛烈で激烈でもちぎさんにしか、そんな彼にも一生涯で一度しか描けない初小説。どうか魂に刻んでください。